企業型確定拠出年金を導入するには?

企業型確定拠出年金(DC)を導入したいと思われている、中小企業様向けのお話しです。
一人社長、2~3人の会社でも導入できます。
しかし少人数の場合は取次をしてくれる金融機関が限られていますのでご注意ください。
ご相談者様
【業種】 サービス業
【社員数】 役員1名 従業員6名(男性1名、女性5名)
【平均年齢】 38歳
【退職金制度】 あり
勤続3年以上の者 10万円×勤務年数(1年未満切り捨て)×給付率
相談しようと思ったきっかけ
法人化して数年経過し業績が安定してきた。今期は一段と良く、今後も期待できそうなので役員報酬を上げることになった。
すると税金の支払いも上がるので、企業型確定拠出年金(DC)を導入することで対策したらどうかと税理士から提案された。役員報酬改定時に企業型確定拠出年金(DC)を導入することを前提に、既に報酬を5万円上げた。
その為直ぐに企業型確定拠出を導入したい。
以前FPの木原さんより企業型確定拠出年金(DC)の話を聞いたことを思い出し、導入方法を詳しく聞きたいので相談に来ました。とのことでした。
ご相談内容
企業型確定拠出年金(DC)の内容、どういう制度なのか、メリット及びデメリットについて、制度についての疑問、そして導入するにはどうしたらいいのか等
ご相談でお話した内容
企業型確定拠出年金(DC)は節税対策ではなく、あくまでも退職金制度である事。
老後の生活の備えとなるものである事。
そのため社員全員に制度説明をし、理解してもらい、導入の了承を得なければならない事。
そしてすぐに導入できるわけではなく、早くとも手続き完了まで6か月ほどかかる事をお伝えしました。
企業型確定拠出年金(DC)の制度説明の後、社長として従業員の退職金、老後の生活などをどのように考えているか?をお聞きしました。
そのうえで、私が取り扱うSBIベネフィットシステムズの企業型確定拠出年金の説明を行い、導入に向けてどの様な流れになるか、手続きや必要な書類、費用等についてお話ししました。
※約1,600万円の生活費の不足
高齢者夫婦無職世帯生活費(1か月あたり) 約26.4万円
高齢者夫婦無職世帯の収入(1か月あたり) 約20.9万円
1か月あたり約5.5万円の不足が生じる
65歳(夫)男性の平均余命は18年
60歳(妻)女性の平均余命は27年
※ 月に不足する生活費5.5万円が夫婦で暮らす期間(18年間)発生し、妻のみで生活する期間(9年間)の不足額を3.85万円(5.5万円×70%)として試算した場合の概算数値。約1,600万円不足
※出典:総務省 統計局 家計調査年報 平成29年家計の概要
確定拠出年金について
確定拠出年金(かくていきょしゅつねんきん、DC:Defined Contribution Plan)とは、私的年金の一つです。
対して公的年金が「国民年金」「厚生年金」、皆さんが普段”年金”と言われているものです。
国が公的年金だけでは高齢期の生活の安定は難しので、積み立て投資をして自助努力のもと足りない分の年金を自分で作りましょうと言っている制度です。
確定拠出年金とは国が勧めるじぶん年金なのです!
詳しくは平成13年に制定された確定拠出年金法第一章、第一条にその目的が書いてあります。
2001年から始まった制度で、20年ほど前からありますが、まだまだ認知度が低い現状です。
確定拠出年金には企業型(DC)と個人型(iDeCo)の2種類あります。今回お話しするのは、企業型についてです。
企業型確定拠出(DC)とは?
大企業の多くが取り入れている制度ですが、中小企業にはまだまだ普及していません。名前さえ知らない人のほうが多い状況です。
ファイナンシャル教育を受けていない、投資額よりも預金額が多い日本人にとって、確定拠出年金の仕組みが理解しがたいことが、普及しずらい一つの要因かもしれません。
では仕組みを詳しく見てみましょう。
仕組み
※SBIベネフィットシステムズ確定拠出年金のご案内チラシより
事業主が毎月一定(確定)の掛け金を払い込み(拠出)し、その資金を個人が自己の責任において運用し、高齢期にその運用結果に基づいてた給付(年金)を受けます。
この運用(積立投資)できる点が確定拠出年金の大きな魅力です。
60歳以降に受け取れます。
一部例外はありますが、積み立てたお金は60歳にならないと受け取れません。
退職時にも受け取れず、転職した場合は転職先の会社に制度があれば引き続き運用するか、なければ個人型確定拠出年金に移行して運用する必要があります。
60歳以降なら
60歳以降70歳までの期間に
- 全額一時金で受け取る
- 年金方式で受け取る
- 一部を一時金で受け取り、残りを年金方式で受け取る
この3つの受け取り方が選べます。
誰が加入できるのか?
企業型確定拠出年金(DC)は会社で働く人たちのものです。
の会社が確定拠出年金に加入している厚生年金加入者(60歳未満)
確定拠出年金には、掛け金の限度額がある
・他の企業型年金制度を実施していない場合
月額5万5000円まで
(35,000円※1)
・他の企業型年金制度を実施している場合
月額2万7500円まで
(15,500円※1)
※1 個人型確定拠出年金を併用した場合
加入すると?
国民年金や厚生年金といった公的年金とは異なり、掛け金を自分で判断して運用しなければなりません。
投資商品の見直しや、資産運用状況のチェックなどを行い運用していきます。若い方だと60歳まで受け取れないので、頻繁にチェックしたり、運用結果に対して一喜一憂する必要はありませんが、ほったらかしにはしないようにしましょう。
将来受け取れる年金額は運用次第で大きく変わります。リスクを抑えるために、元本保証商品の定期預金で運用すると、リスクも低いですが、リターンも望めないことを考えて運用しましょう。
メリット
- 税金面での優遇
掛け金が全額非課税(社会保険料の対象外、所得税・住民税非課税)
運用益が非課税
受給時は税制優遇(一括:退職所得控除、分割:年金控除)
加入者にとって
- 社会保険料、所得税、住民税軽減
- 投資教育を受けることで金融の理解度が上がる
- 老後資金を確保できる
- 条件を満たしていれば、転職しても貯まった資金を持ち運べる
- 運用が良ければ、年金額が増える
企業にとって
- 掛金は全額法人の経費(福利厚生費)
- 折半分の社会保険料軽減
- 掛け金の追加負担が生じないので、将来の退職金の積立不足や後発債務がない
- 社員の自立意識が高まる
- 優秀な人材を確保できる(中途入社者)
デメリット
- 社会保険料の等級引き下げによる、将来の年金額の引き下げ
- 傷病手当金、出産手当金、育児・介護休業手当金の引き下げ
- 加入期間が10年未満の場合、受け取りが最長65歳までスライド
- 掛け金を停止できない
- 運用の責任は自分で負う
- 60歳まで引き出せない
傷病手当金、出産手当金、育児休業手当金についての注意点
女性社員が多い会社は気を付けてください。出産や育児の手当が減額されます。
出産が考えられる方は、掛金額を抑える等で対策できます。
例えば、30歳・基本給17万円・確定拠出年金掛金1万円の場合
掛金を5千円にすれば、減額金額は半分になります。
加入者にとって
- 運用リスクの負担
- 年金額が確定してない
- 運用するために、一定の知識が必要
企業にとって
- 導入時、運用時にコスト負担が発生する
- 投資教育の負担がある
運営の仕組み
導入はまず、どの運営管理機関で加入するかを決める必要があります。
私の取り扱う運営管理機関(SBIベネフィット・システムズ)はこのような運営体制になっています。
よくご質問で
運用商品を提供している金融機関(商品提供機関)が破綻したらどうなりますか?と尋ねられます。
運用商品の種類によって加入者保護の仕組みがありますのでご安心ください!!
(1)預金
預金保険制度により、破綻した金融機関の加入者の他の預金と合計して元本1,000万円とその利息まで保護されます。
(2)投資信託
・販売会社
商品の売買の仲介を行うのみで、加入者等の年金資産を保有してないため、販売会社が破綻しても年金資産には影響ありません。
・運用会社(委託会社)
加入者等の年金資産は受託会社が保有しており、運用会社は保有しないため、運用会社が破綻しても年金資産は保全されます。
・受託会社
加入者等の年金資産を保有していますが、法令に基づき、受託会社の固有資産とは分別管理されているため、受託会社が破綻しても年金資産は保全されます。
よくある質問
Q.加入者が亡くなった場合は?
A.給付前に死亡した場合は、遺族からの請求により死亡一時金として遺族が受取ります。
死亡一時金の受取人を指定していなかった場合は、民法上の法定相続人ではなく、法令により次のとおり順位が定められています。
(1) 配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にあった者も含む)
(2) 子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹
Q.掛け金の積み立てを停止することはできるか?
A.原則停止できません。ただし、休職期間、育児・介護期間のうち無給の期間は規約に定めることで停止できます。
Q.退職後、専業主(夫)婦となった場合は?
A.資産を個人型に移換後、加入者となって掛金拠出を行うか、もしくは運用指図者となるかを選択します。
また※一定の法令上の要件を満たせば、脱退一時金の受取りを選択することも可能です。
※一定の法令上の要件とは?
<脱退一時金の受給要件>
A:年金資産が15,000円以下の場合
・企業型・個人型の加入者・運用指図者でない
・資格喪失日の属する月の翌月起算で6ヶ月以内
B:年金資産が15,000円超の場合
①国民年金保険料免除者(※)である
②障害給付金受給権者でない
③掛金の通算拠出期間は1ヶ月以上3年以下、または年金資産が25万円以下
④最後に加入者の資格喪失した日から2年を経過していない
⑤企業型年金から脱退一時金の支給を受けていない
Q.現在個人型に加入している場合は?
A.企業型で掛け金を拠出する場合は、個人型の運用商品を一旦全部売却し、現金化した後企業型に移します。
また、企業型に移さず個人型に残して、個人型運用指図者となる事もできます。
Q.年金資金の引き出しはできるか?
A.一定の年齢(60歳以上)の到達、障害の認定、死亡以外での引き出しは原則できません。
社長の想い
制度内容について説明を終えて、従業員の退職金、老後の生活などをを含め、導入に向けての社長の想いをお聞きしました。


企業型確定拠出年金の導入の一番の目的は何でしょうか?
節税です。役員報酬を上げる事に対しての税対策と、税理士から言われたので!


本来、企業型確定拠出年金は節税対策ではなく、退職金制度である事は説明でご理解いただけましたでしょうか?
はい。しかし既に従業員の退職金制度はあります。役員だけ加入することはできないのですよね!


はいそうですね!従業員の皆さんに制度説明をし、加入しないと言われれば役員だけの加入もあり得ますが、、、
従業員が運用を理解ができるか?そして運用のリスクを背負わせるのはどうかと思うのですが?


現在の退職金制度の内容をお伺いしましたが、仮に30歳の社員の方が、60歳の退職年齢まで勤務されたとして退職金300万円です。この金額は老後資金としてどう思われますか?
いや~少ないでしょうね!


人それぞれライフスタイルが違うので、300万円が少ないとは言いきれませんが、できることなら多く退職金を渡せたらと思われませんか?
それは凄く思います。


何もしなければ30年後も額面は300万円ですが、30年後インフレで、300万円の購買力、お金の価値は今より下がっていると思います。
そうですね!


ですからせめてインフレ(政府目標率2%/年)に勝つくらいは殖やしてあげられたらと考えます。(2019年0.99%)
では確定拠出年金等に加入して運用し、積極的に殖やす努力をしないといけないわけですね!


もちろん運用して殖やすのが一番ですが、確定拠出年金の運用商品には定期預金もあります。運用利益がなくとも税軽減だけでもインフレ対策になります。オススメしませんが、、
普通に定期預金でお金を貯めても税金は安くならないが、確定拠出年金の定期預金だと減税できるんですね⁉


例えば、30歳・基本給17万円・確定拠出年金掛金1万円
30年間で約82.4万円の減税,1.3%の運用と同じ効果です。
何もしなければメリット0円です。基本給は上がっていくと思いますので、あくまでも現時点での試算です。
確かに税メリット大きいです。


社員の皆さんに少しでも豊かな老後をとお考えであれば、役員だけとは言わず全員加入を目指しましょう。
社員の将来の為に少しでも何かできればと思うので、社員にも制度内容を理解し加入してもらえるような説明会をお願いいたします。


お任せください。導入時だけでなく、導入後のサポートもしっかりさせていただきます。

導入について
皆さん直ぐ始められると思っていらっしゃるのですが、導入には6か月はかかるんです。10月にご相談に来られましたので、最短で4月導入になります。
4月導入の場合はこんな感じのスケジュールです。
社会保険料は、4月~6月の3か月の給与の平均で算定されます。その為4月からの加入が一番税メリットを享受できます。
まず、準備するもの
①履歴事項全部証明書写し
②保険料納入告知額・領収済額通知書
③就業規則、賃金規程、育児介護規程
この書類が必要です。
①、②はすぐ準備できても③のない会社は最初から作る必要があるので、時間がかかります。
そして確定拠出年金制度を加えた規程を作らないといけない為、作成をスムーズに行うには、制度を理解されている社労士さんにお願いするのがベストです。
導入費用
SBIベネフィットシステムズ「すまいるプラン」の場合
全員加入7名だとすると
初期費用は155,100円
導入一時金 110,000 円 (1 事業所あたり)
口座開設手数料 3,300 円 (加入者 1 名あたり)
導入サポート費用22,000 円 (1 事業所あたり)
他費用
社労士への規程作成費用、FPへの導入コンサル費用
他費用について
③就業規程は
確定拠出年金制度を加えた規程を作らないといけない為、作成をスムーズに行うには、制度を理解されている社労士さんにお願いするのがベストです。
導入コンサルは
直接運営管理機関に申し込んで導入もできますが、できれば確定拠出年金に詳しいFPにコンサルを頼んでください。
なぜなら、それぞれ会社の経営状態や将来の展望、社長の社員に対する想い等違います。
型にはまった設計プランでなく、話をじっくり聞いて制度内容(掛金金額、設計プラン等)を考えて設計してくれるのは、やはり確定拠出年金専門のFPです。
また導入後は1年に1回社員に対して、「投資教育」が義務付けられています。
それも一緒に依頼できます。
まとめ
今回このご相談者様は4月に導入されました。
メリットだけでなくデメリットもありますが、
とにかく老後の備えになります!!
会社にとっては経費削減も大きく、役員にとっては税の軽減効果も期待できます。
人間は感情の動物です。感情に流されてしまわないで強制的にお金を貯められる仕組みを確実に確定拠出年金で作ることができます。
下せない口座として確定拠出年金は最適な老後資産形成術です。
そして毎月一定金額をコツコツと積み立てていく長期投資で、投資のリスクを抑えられる、安心してできる投資です。
公的年金だけでは豊かな老後生活は望めません。
会社も社員も喜ぶ企業型確定拠出年金を導入しましょう!
導入ご検討の会社様は、私、確定拠出年金専門FPにお声かけください。
お金の知識を深めたい方へ
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